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 旋盤の魔改造 クロススライドの製作  Replacement production of Carriage for lathes.
 これまで、旋盤の精度改善のため、クロススライドの改造等を行ってきました。しかし、サイズが小さい為、
 旋削に不都合を生じる事が増えたため、大型のクロススライドを製作し、置き換えを企てます・・・

このような大型のクロススライド(往復台・横送り台)を製作します。



これまでもクロススライド(往復台・横送り台)のわずかな、
首振り運動を原因とする、旋削精度低下を防ぐため・・・

摩擦の少ない、真鍮製にしてみたり・・・
(この写真では、送りネジはベッドの手前)


送りネジをベッド間に移設したり・・・で、それなりに効果を上げてきましたが、

クロススライドの、X軸移動量(手前~奥方向)が小さく、
旋削に度々、不便・不都合を来すようになった為、
大型のクロススライドを、新製する事にしました。
基本構造は、これまで得た経験・設計思想を引継いでいます。

製作に当たって必要な工具として、
先ず、フライカッターとアリ溝カッターから製作を始めます・・・


2025/08/01
フライカッター(Fly Cutter)の図面です。
海外の、機械工作系ユーチューバーの動画を、いくつか視聴してから、設計しました。
一方、国内には参考になるようなものは、ほとんど見当たりませんでした。
こんなんで国内産業の将来、大丈夫か?・・・という気分になります。

ただ、中には刃先が、直径の延長線上に位置しない(刃先の角度が意図しないものになる)ような、
おかしな設計のものも見られたので、
そこは、盲信は避けなければなりません。

カッターは55°の旋盤チップ(DCMT070201等)が使える様にします。
材料は、工具なので、硬度・強度が必要ですから、
炭素鋼の S45CD 材としましたが・・・



こちらは、アリ溝カッター(Dovetail Cutter)の図面です。
フライカッターと同様に、55°旋盤チップを使用しますが、
チップの一辺全部が、切削材料と接するのを避けるため、
1°プラスして56°で取り付ける様にしました。

元々の旋盤・クロススライドのアリ溝の角度も 55° よりもう少し大きく、
56~57° くらいでした。



フライカッター、アリ溝カッターとも、製作法はほぼ同様なので、
フライカッターでの製作過程を、報告します・・・

写真は、手持ちの Φ40 S45CD 材から、必要部分を切り出しているところ・・・
始め、バンドソーを使って切り出そうとしましたが、
材料が非常に硬く、(特に表面に近い部分)
あっという間に刃が消耗・坊主になってしまいました。

それで、旋盤の突っ切りバイトで外周をチマチマ削り、
後は、ダイヤモンドヤスリをドリルレースのように当てて、
二日も掛けて、気長に削り出す破目になりました。

この間に、損耗した刃物の値段や、失った時間を考えると、
始めから定長に切り出した材料を注文した方が、はるかに廉価、時短になったはずです・・・

なお、アリ溝カッターの方は、Φ20 の同じ S45CD 材ですが、
こちらはどういう訳か
バンドソーで、それほど苦も無く切り出せました。

追記→素材の太さによって、硬さが変わるような事は、
熱処理時の冷却速度の違いによって生じ、ありがちな事のようです。



フライカッター軸の方を削り出している途中です。
センター押しをして、ブレを防いでいます。

四つ爪スクロールチャックを、逆爪にして把握しています。



軸の削り出しが終わりました。
真鍮と違って、炭素鋼の切粉が飛んでくると、熱いし、痛いし・・・



上辺周囲のC面取りを、
トップスライドを使って行っています。



マシンバイスで軸を咥え、
刃物台となる所を、フライス盤で削り出しています。
エンドミルはΦ6です。

一気に削り出さず、上から5mm くらいずつ、
三回に分けて削っています。



旋盤チップが載る部分を削り出しています。
エンドミルはΦ2 です。
材料が硬いので、エンドミルが折れないか心配でしたが、そこは全然大丈夫でした。
マシンバイスをテーブル上、斜めに設置して、55°の部分を削り出しています。



チップを載せて、現物合わせで、M2.5 取付ネジ穴を明けます。
チップの取付に僅かでも遊び・ガタがあると、
加工中の振動・衝撃でチップが動いてしまい、
工具として使い物にならなくなるので、慎重に位置を決定します。



旋盤チップをねじ止めしたところ・・・
僅かのガタも無く、固定できました。



底辺側のC面取りを、
ロータリーテーブルと、90° スポッティングドリルを使って行っているところ・・・
図面を見ると判りますが、こちら側のC面取りは、旋盤では出来ません。



完成したフライカッターで、面削りを行ったところ。
この様に、幅約40mm以内なら、
1回のパスで高品位な面が出せるので、フライス盤には非常に有用な工具です。
もっと早く製作すれば良かった・・・



製作した、フライカッターとアリ溝カッターです。

次は、この工具を用いて、旋盤のクロススライドを製作します。




2025/08/08
クロススライドの製作に入ります。

ワークを設置しているところ。
ワークは、S45C フラットバー(ミガキ材) t=25, W=75, L=200mm です。

基準面を決め、テコ式ダイヤルゲージで、フライス盤のX軸との平行度をチェックしています。
ワークには、仮固定用のネジ穴を設けてあります。

写真では、ワーク端面を仕上げるため、ベークライト板で少し浮かせています。



クロススライドの滑りを良くするのと、ベッド側の摩耗・消耗を減らしたい為、
ベッドと直接、接する部分は、真鍮材とします。

ワークの裏面から加工を始めています。
真鍮材が入る部分を削り終わり、
送りネジ受けの取付部を削っているところです。



真鍮材をハンダ付けしました。
熱容量が大きいので、ハンダ付けは、
ガス台に置いて、直接ガス火加熱で行いましたが、
加熱・冷却とも随分時間が掛かりました。



90°スポッティングドリルをエンドミル代わりに用い、
V溝を削り出したところ。
Φ10ピンゲージをV溝に置いて、その高さから切削量を調整します。
(下記、図面参照)

ところで、
JIS B6202 p.15「クロススライドの運動と主軸中心線の直角度」にあるように
クロススライドと主軸の角度αは、90°より僅かに大きくするのが一般的です。
(丸棒の端面を切削した場合、中心が僅かに凹むようにする)
その割合は、普通旋盤の場合、300mmに対し0~0.02mm
ですが、本作例ではもう少し大きく
300mmに対し0.03mmとしました。

なお、この計測・セッティングは非常に難しく(一般的なスコヤの直角精度の10倍以上!)
フライス盤XYテーブルの直角度も絡み
煩雑・専門的となるので、ここではその解説は省きます。

(最終的には、大きな面板を旋削しなければ、正確な検証ができませんが、
それが、未だ、出来ていないというのも理由の一つ・・・)



フライス盤Z軸のガタは、刃先にはテコの原理で増幅されて伝わり、
加工精度に非常に悪影響を与えます。

そのため、通常のZ軸ロックネジ(緑→)だけでなく、
都度、シム調整ネジ(←赤)も全て締め上げて強固に固定しました・・・
非常に面倒な作業となりますが、加工精度確保の為には止むを得ません。



ワークを表に返して、再び、テコ式ダイヤルゲージでX軸との平行をチェック。
固定後、自作したフライカッターを使って切削を始めたところ。



アリ溝両側の、フライカッターによる切削が終わりました。
フライカッターの切削面は実に綺麗・・・



アリ溝カッターに持ち替え、アリ溝を削り出しています。
写真に見えるアリ溝、手前と奥の両側を、均等に削って行きます。

アリ溝切削時、アリ溝カッターには、強い引き抜き方向の力が加わるため、
テーパー、Z軸を、余程強固にロックしておく必要があります。
今回、工具がテーパーから(0.5mm程)引き抜かれたのは、始めての経験でした。
すぐ気が付いたので、辛うじて修正・対処可能でしたが・・・

そもそも、このような軟なフライス盤で、クロススライドを作ろうという魂胆が、
間違っているのですが・・・
現役時代なら、会社のフライス盤を借りて加工するところです。



アリ溝は、Φ4のピンゲージ二本を噛ませて、その外幅を計測し、
切削量を判断します。(下記、図面参照)

精度にはほとんど影響ありませんが、アリ溝カッターの切削面は、ご覧のように非常に汚い・・・
折角のフライカッターの、美しい切削面が失われてしまったのは、残念至極。



ワークの固定方法を、変更します。
押さえ金の当たる部分は、圧痕が付かない様、銅板を挟んでいます。

アリ溝の間、送りネジの通る部分を、エンドミルで切削します。
これで主要な重切削は終わりです。



裏返して、DROとセンタードリルを使って、正確な位置に穴明けを行います。

写真は、押さえ板を引き上げる為の、四つのネジ穴を開け終わり、
次いで、移動コマの角(ツノ)が入る部分を、DROを頼りに切削したところ・・・



クロススライドの新旧を、比較してみました。

全幅は変わりませんが、
手前、奥行方向は二倍近く大きくなります。
旋盤の心間より、大きいかも・・・



フライカッターで、送りネジ受けを切削調整しているところ。
送りネジ受けには、新たに、スラスト・ベアリング DDT-1050DSG(ミネビア)二組を組み込みます。
送りネジはM8×P1の逆ネジで、中華の寸切りボルトを購入、追加工して使用しました。



各部品を取付け、調整、完成したクロススライド。
刃物台・刃物送り台などは、そのまま流用しました。
送りネジ受けに、スラスト・ベアリングを組み込んだ事もあって、
刃物台の移動に際しても、スムーズ。
引っ掛かりや回転ムラも、ほとんど感じられませんでした。

バイトを配置できる範囲が広がったので、
これまでの旋削の不便さが解消されました。

旋盤 Compact3 もここまで改造を重ねると、もはや別物という感じがします。
魔改造も深淵に入りつつありますな・・・
しかし、面倒な事は、ボケない内にやっておかなければなりません・・・



色々と不備のある加工図面ですが、参考になれば・・・




この頁 「クロススライド

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